運命すらも呼吸をとめて

優秀なαだった恒吉は、突然変異によって社会的地位の低いΩになってしまう。マンションの隣人のα・麻川に助けられつつ、自らの人生を諦めない恒吉の姿に麻川は心を動かされていって──。

あらすじ

「何もかも目の前の雄に委ねてしまいたい」
自他共に認める優秀なα・恒吉は今日も今日とて完璧な一日を過ごす──はずだった。大事なプレゼンテーション中にΩとしての発情期を迎えてしまった恒吉は、αばかりが集まった会議室中にフェロモンを充満させてしまい…!?逃げ帰った自宅マンションで、隣人の麻川に助けられるも、β性だと思っていた隣人が実はαだと知ったときには、疼く体を抑えるすべもなく……。麻川に組み敷かれるなかで、自分がΩになってしまったのだとまざまざと自覚させられて──。そして、麻川もまた突然変異のαだと知り──。滝端が描く、突然変異型オメガバースセクシュアルラブストーリー!

ネタバレあり感想まとめ

 完璧なαとして会社でもエースの地位を築いていた恒吉。しかし、ある日Ωにしかないはずの発情期が来てしまい、αの恒吉は突然変異でΩになってしまったことを知る。同じマンションの隣人である麻川に助けてもらったことにより一時的にはなんとかなるも、αばかりのチームにはもういられなくなり、管理課に左遷されてしまうのであった。完璧なαとして生きると決めていた恒吉の人生はここで終わりを告げてしまう。性別がたとえ変わったとしても自分は自分であると言い切った恒吉であったが、自分のデスクに戻ろうとすると同僚たちがΩになった自分のことを嘲っている声が聞こえてしまう。元同僚にもΩになってしまったことで襲われかけてしまい、警察沙汰になるも警察もまともに取り合ってはくれなかった。結局自分のことを見ていてくれた人は誰もおらず、「α」という性別でしか見られていなかったことに落胆する恒吉。改めてΩ性の人間が世間からどう思われているのかを身をもって知ることとなる。しかし恒吉は諦めずに、Ωとしての生き方を模索していくことに決める。

 新しい部署に来てみると、今までの働き方とはほぼ正反対でリラックスしながら働くことができる環境であった。主任からもΩに昇進がないわけではなく、番ができれば働きやすくなることを伝えられる。麻川との奇妙な関係も続いていた恒吉は、突然変異の半端者同士で番関係にならないかとそれとなく伝えたところ、麻川は「αのお前だったらもっと賢い選択をしていただろうな」「お前みたいなやつが俺を選ぼうとするな」と、激昂してしまう。麻川に距離を取られるが、心配になって部屋を訪れてみるとそこには発情した麻川の姿があった。一人で大丈夫だからと言い張る麻川に、なんで一人になろうとするんだ、線引きして格好つけて自分と変わらないじゃないかと恒吉は言うが、「お前は逃げずに前を向いて生きていけるだろ!!」と麻川は突き放す。麻川が抑制剤の過剰摂取で暴走したのは、Ωの自分がそばにいたからだと思った恒吉は彼と関わりを持つのをやめた。

 初めての発情期を一人で過ごした恒吉は、無性に麻川に会いたくなってしまうのであった。発情期後、一人で飲んでいると前に自分を襲った元同僚に再会してしまう。またもや発情誘発剤を打たれてしまった恒吉はまともに抵抗することもできず、自室に入り込まれてしまった。帰りのタクシーで不可解な知らせを聞いていた麻川は、恒吉が心配になり、間一髪のところで恒吉の部屋を訪れて助け出すことに成功。

 目を覚ました恒吉に麻川は話したいことがあるからまた家に来て欲しいと告げる。麻川の元を訪れた恒吉は麻川の過去の話を聞くことに。誰よりもバース性に囚われていたのは麻川自身であり、恒吉と出会ったことによって同じように前を向いて進んでいきたい、と思うようになった麻川。今度は麻川から番にさせて欲しいと告げる。さらにお互いに想いあっていることもわかり、二人は結ばれることとなった。

オメガバースの作品は多いですが、突然変異同士のカップリングはとても珍しい題材であると思います。αは優秀でΩは迫害されがちなのはどの作品も変わりませんが突然変異とは言え、その偏見にも挫けずに自分なりの生き方を模索していく恒吉の強さとΩとして生きることのリスクや弊害などが分かりやすく描かれていて読んでいてとても胸を打つような作品でした。麻川も自分のバース性に囚われ、恒吉に冷たく接してしまうのですが、一緒に過ごすうちにその強さに惹かれ、自分もこうなりたいと変化が起きていく。お互いに支えあって前を向いて人生を歩んでいけるのはとても素敵だなと感じました。私は電子書籍で読ませていただきましたが、書き下ろしのΩの巣作りもとても魅力的でした。

著者:滝端
レーベル/出版社:gateauコミックス/一迅社
発売日:2022/06/15

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