日々体を売って生活しているオメガのダートは、自分の暮らす教会が発情期が来たオメガを闇ルートで売買していることを知ってしまい、妹と一緒に早く逃げるため危ない仕事に手を出してしまう。そこで運悪く発情期が来てしまい、意識が朦朧とするダートを助けてくれたのは黒い狼の獣人で──!?
あらすじ
【望んでいなかった「魂のつがい」】「おまえに拒否権はない」両親を亡くし、妹と一緒に教会で育ったオメガのダートは、発情期が来る前に独り立ちしようと身体を売って稼いでいた。そんな時、教会が発情期の来たオメガの子供を闇ルートで売っていることを知ってしまう。一日も早く妹を連れ教会から出ていくため、ダートは誘われていた危ない仕事をすることに…。しかし、運悪く発情期が訪れてしまう。初めての発情期に意識を失いかけていたダートだったが、その時、目の前に黒い狼の獣人が現れ――!?
#獣人BL
#オメガバース
〈ネタバレあり感想まとめ〉
以前会った、ジュダのパートナーと名乗る人間の男・ウィルのことを思い出すダート。彼は特権階級に強い憧れがあり、それに成り上がるために特権階級であるジュダと手を組んでビジネスをしているというのだ。なんだか仲良さげだったジュダとウィルを思い出してモヤモヤしたダートは気晴らしに料理を作る。妹のベラや友人のフリオとこういう暮らしがしたかったと思っていると、そこにジュダが帰宅してくる。ジュダは帰宅早々「お前かなり匂ってるぞ、いいから早く来い」とダートをベッドに連れていく。いつ発情してもおかしくないダートの状況に気付いたジュダは、発情期を呼ぶためにセックスをする。そのせいで一日寝込んでいたダートが起きると、ダートの料理をジュダが丸ごと食べてしまったことに気付く。ジュダは「仕事」で家を空けると言っていたがそれがどんなことなのかは知らない。何か手がかりになるものはないかと部屋の中を探すと、オメガの子供に値段がついた教会のリストを発見してしまう。
二人がどんな商売をしているのか確かめるべく尾行すると、ウィルに見つかってしまうダート。リストのことを聞いてみると、これはウィルが作ったダミーのリストであり、人身売買の根絶をするためにこれに引っかかった悪党を摘発しているのだという。グレーなところは攻めているものの、人身売買はしていない、と言われ安心する。さらに、ジュダとダートが初めて会ったあの墓地のことを聞いてみると、教会と関わりがあって墓地にいたのではなく、正真正銘墓参りのためにいたのだと思う、と言われる。誰のために墓参りをしていたのだろうと思いながら屋敷に帰宅するとジュダを誘惑している一人のオメガを見つけてしまう。それを見て焦ってしまったダートは、興奮そのままに二人の間に割って入る。そのオメガに対して「二度と話しかけるな」というジュダだが、ダートは無意識に「触るな、それは俺のだ!」と思ってしまったことに焦る。部屋に入り、興奮しているダートを抱きしめて落ち着かせるジュダ。そのジュダの匂いでこんなにも落ち着いてしまう自分に驚く。自分のしてしまったことに対してジュダが怒ってしまうのではないか、と思っていたがよく見てみるとイライラしているのではない様子。「納得いかないのはお前だけじゃないんだからな」と言われ、今まで言われたことを思い出すダート。お互いにやきもちを焼いていることに気付き恥ずかしくなる二人。妹を探すのは諦めろ、というジュダに「なんで?」と返す。すると、「妹を探して危ない場所に出入りしているオメガがいると噂になっている」「妹をダシに罠に嵌められて苦しむ姿を見て喜ぶような変態に売り飛ばされる前に自粛しろ」と言われてしまう。「俺が探さなきゃ誰がベラを助けてやるんだよ!!」というダートに会ってどうするんだと言うジュダ。なんでそんなことを言われなきゃいけないんだ、とダートが言うと「オメガの気持ちは分からないが、俺は探して後悔した」と答える。
ジュダには過去にただ一人番にしたいと思っていたオメガがいた。そのオメガは貧しい家の娘であり、その子と家族になって静かに暮らそうと思っていた。もし貴族なら娘のことが好きなら買ってくれとその子の両親に頼まれたこともあったが、自分の一族のしがらみにうんざりしていたジュダはくだらない意地で身分を隠してしまった。そのことでグダグダしているうちにその娘は金に困った両親に売り飛ばされてしまったのだ。それから、その娘を探し、見つけた時にはその娘は妊娠しており、「ジュダに知られてしまったことに耐えきれなかった」と言い残して死んでしまった。自分がくだらない意地を張らずに貴族として買っていれば死なずに済んだかもしれない、と自分を深く責めるジュダ。その話を聞いたダートは「こいつは俺を拒絶しているわけじゃない、全てに失望しているんだ──…」番がいらないわけではなく「その一人」以外いらないんだと思うと共に、その言葉に傷ついてしまう。それに動揺してしまったダートは「自分が後悔してるからって俺に押し付けるのはやめろよ!!」「もしかして、だから俺にあんな大金払ってんの?そのオメガを死なせた償いとか思ってんのかよ、馬鹿みてぇ」と言い放ってしまう。すると、「自分に値段を付けると言うことがどういう事なのか解っているのか?」「バカなのはお前の方だ!自分から落ちていけば楽だろう、だがそれではいつまで経ってもそこから這い上がる事は出来ないぞ」と二人は喧嘩して、ジュダは部屋を出てってしまう。自由や未来を奪われたのは自分ではなく、ジュダの方だったのだと途端に涙が止まらなくなってしまうダート。自分がジュダの大事な場所を踏み荒らしてしまったため、欲しかった「たった一人」はもういなくなってしまったのだ。一方ジュダはなんでこんなに拗れるのかとイライラしていた。自分のようになる前に引き返してほしいと思ってのことだったのだが、投げやりなダートの言動にイライラして傷付けたくなってしまうのだ。今まで誰かに腹が立つ事はなかったし、あの娘のときも怒りの矛先は自分に向いていた。自分の母親のことを思い出すジュダ。
ジュダの母親は人間のオメガであった。「惚れた相手の子供を産めるんだから自分がオメガに生まれて幸せだ、お前もきっと誰かを幸せに出来る」「お前の「唯一」を見つけるんだよ」という母親の言葉を思い出し、「誰も幸せに出来ない」と思うのだった。両親の仲良さそうな記憶が蘇り、その頃はオメガというものはなんて幸せそうな生き物だろうと思っていた。昔の両親やルアードとの夢を見て目覚めるジュダは、ルアードはいつも正しく、それに比べて中途半端な自分にさぞかし母親もがっかりしているだろうと思う。ダートは何日もすれ違いでジュダと顔をろくにあわせていない。「オメガだから甘えるな」ってほんとキツい、と落ち込んでいると、お付きのバロンが暖かいお茶をくれる。まともな仕事をしてジュダにも変な目で見られないようにしよう、と考えていると以前ジュダを誘惑していたオメガに声をかけられる。そのオメガはジュダの両親のことを知っており、それでジュダとの子供を狙っていたらしい。ジュダの父親は貴族では珍しく自分で見初めたオメガをつがいにしており、庶民のように夫婦ごっこをしていたことで有名だったようだ。それで、ジュダとの子供ができれば普通の夫婦のように一生面倒を見てくれるのではないかと期待していたオメガも多かったのだ。自分にもし子供ができたら─、と考えるダートはしばらく発情期が来ていないことに気付く。そのオメガに医者を紹介してもらい受診すると、教会にいた時に服用していた粗悪な抑制剤のせいでオメガのホルモンが少なくなってしまったらしい。発情期が止まることを喜ぶオメガも多いが、発情期の来ない自分はジュダにとって価値のないものであり屋敷に置いておく必要もなくなってしまう。どんなに憎まれていようとジュダを好きになってしまったダートは離れることができず、屋敷に帰った後は発情誘発剤を使って必死に誤魔化すことに。
時が経ってもそれは変わらず、子供などできないのに偽ったまま、少しでもそばにいたいと思って騙し続けてしまう自分が嫌になる日々を過ごしていた。親戚の会合に出席することになったダートとジュダ。出発までの時間を潰そうと屋敷をうろうろしていると、ダートはお付きのホランから逃げるカイを見つける。カイは発情期がくれば自分を放置しているルアードにちゃんと見てもらえる、と思っているが実際は番になれるのではなくいろんなアルファと交配させられてしまうのだ。そんなカイを見て、発情期がくれば解決することではないと思ってしまったダートは怒鳴ってしまう。自分のせいで自由や未来を奪ってしまったジュダに申し訳なさを感じ、望まない番である自分と、ルアードのことが好きなのに番にはなれないカイの苦しみはどちらがマシなのだろう、と考える。雨に降られたため、一旦屋敷に戻り会合に行くための支度をしていると、自分の番に首飾りをつけさせる奴はいない、と首輪を外すついでにダートにマーキングを施すジュダ。体裁を気にした行為だったとしてもそれだけですら喜びを感じてしまう自分もカイと同じくらいバカだ、と思う。アルファだらけの会合に息が詰まりそうになりながら辺りを見渡してみると、商館の営業と思われる鎖で繋がれた人たちを見つける。その中に、見間違えるはずもない、かつて売られた友人のフリオの姿があって──。
今回もいいところで終わってしまいました。フリオは一体どうしてアルファだらけの会合にいたのでしょうか。お互いのことが確実に好きになりつつあるのに素直になることができない二人は今のところ、すれ違い、傷付けあってばかりでとにかく早く幸せになってほしい、との思いがより一層強くなりました。少し大人になった短髪のダートも可愛げが残っていてとてもよかったです。3巻以降もまた感想など書いていけたらいいと思います。
著者:羽純ハナ
レーベル/出版社:ダリアコミックス/フロンティアワークス
発売日:2018/04/21